国境を超えて広がる置き薬
◆富山からアジアへ
富山県を発祥とし、長い歴史を持つ「置き薬」というシステムは、今や国外にも普及しています。その先駆けとなったのが、公益財団法人日本財団が2006~2011年に実施したモンゴルにおける置き薬システムの普及活動です。海外の農村部や開発途上国では、流通手段が未発達なため十分な医療や薬が行き届いていないという実状に着目。そのようなエリアにおいてこそ、定期的に売薬さんが訪れる置き薬のシステムが役に立つのではと考えたのです。富山県は、同財団によるこの普及活動を積極的に支援してきました。それも相まり、富山大学や地元企業も参画。医薬品の製造、販売、流通に問題を抱えている途上国への支援として、現在も置き薬システムの普及に力を入れています。
ミャンマーでのプロジェクト
モンゴルでの取り組みを参考に立ち上がったのが、ミャンマーへの置き薬システムの普及、伝統医薬品の製造・品質管理技術の伝授プロジェクトです。富山大学和漢医薬学総合研究所は、JICAの「草の根技術協力事業(地域経済活性化特別枠)」の支援を受け、ミャンマーの伝統医療局や製薬工場の職員へ技術指導を実施。当時、下痢薬の製法すら確立されていなかったミャンマーでは、下痢はマラリアと並ぶほど重大な疾病に類していました。そこでまずは、製薬技術を支援することからスタート。3年を経た結果、ミャンマーの医薬品の品質は格段に向上し、医療関係者をはじめ現地の人々からも高く評価されるようになりました。また、2017年からは、ミャンマーにおける第二期プロジェクトとして、製薬工場の建設、施設・製品管理に関する技術的なサポートを実施しています。
なお、置き薬システムの普及にも手応えがありました。ミャンマーでは、医療整備が乏しい農村部に済む人が多く、病院のある町へも距離があるとのこと。そこで、日本と同じように各家庭に一つの薬箱を置き、3か月ごとに売薬さんが回るプロジェクトを約500戸で実施したところ、大きな有用性があったといいます。これを受け、置き薬の展開が活発に進められるようになりました。
産学官の連携
ボランティアや各種研究の推進は、人材・設備・資金など多くを要するため、個人レベルではなかなか進まないのが実状です。しかし、富山県においては、この課題を軽やかにクリア。富山県、富山大学、地元製薬企業など産学官がスクラムを組み「オール富山」で海外支援へ取り組んでいます。その背景には、300年以上もの歴史をもつ「富山の置き薬」に対する誇り、豊かな知見や経験などがうかがえるでしょう。
現地での支援から始まった置き薬に関するプロジェクトは、今や富山県が海外からの研修生を受け入れるまでに成長しました。これは、各発展途上国において、国レベルで医療や薬に対する意識が向上してきた現れでもあります。